20230812

 10時起床。(…)から30分後にそちらに着くとLINEが届いたので、あわてて階下におりて身支度を整える。メシは食わない。中国不動産最大手であるらしい碧桂園という企業の2023年1〜6月期の最終利益が赤字1兆円という報道を見る。デフォルトになれば恒大集団よりも深刻な影響を与えることになるという。「中国経済崩壊!」というのは「三峡ダム決壊!」と同じでそれを嬉々としたようすで口にしている人間がいればそいつは正真正銘底なしの愚物であると証明してくれる便利なフレーズではあるのだが、前者についてはもはや右のアホの夢物語ではなくガチっぽくなってきているのを、大きな報道のみならず現地のあちこちから見聞きする小粒にして無数の情報からもけっこう感じる。
 (…)が到着したところでおもてに出る。(…)にやる予定のおもちゃは帰りに渡すことに。車の助手席に乗りこむ。後ろの席には(…)と(…)がそれぞれチャイルドシートにちょこんと座っている。(…)はよりいっそう人間らしい顔になっていた。(…)はこちらの姿を目の当たりにするなり、以前のようににらみつけてくることはなかったがめちゃくちゃ恥ずかしそうな笑みを浮かべ、視線を隠すようにじぶんの手の甲で目を覆った。ほんのついさっきまで、もうすぐ先生来るで、恥ずかしがらんとちゃんとあいさつできる? と夫妻がたずねるたびに、ものすごいハイテンションで、できる! できる! できる! と言ってきかなかったというのだが、案の定、土壇場でめちゃくちゃシャイになったかたち。しかしこちらが「おい、(…)! 盆と正月がいっぺんに来たみたいやな!」とけしかけると、我慢しきれず吹き出すのだった。
 (…)の新築は(…)にある。おれもう帰国してから二十万くらいつことるわというと、なんでそんなにと(…)はびっくりしたようす。(…)はだんだんと積極的に口をききはじめた。例によって車窓越しにながめる大型車というかいわゆる「はたらくくるま」に興味津々だった。なにかの拍子に(…)が、両腕を体の前に縦にかまえて、そろえた両拳にあごを添えるようにした状態でややあおむき、上半身全体をふるわせながら「ちがうわ!」と口にした瞬間があり、それがおもしろかったので、こちらもマネしたところ、(…)がまたさらにそれをくりかえし、結果、今日は「盆と正月がいっぺんに来たな」ではなくそちらが流行語になった。(…)ちゃん、二回連続できるかん? というと、ちがうわ! ちがうわ! とやってみせるので、じゃあ次先生が三回やるわ、でもできるかなァ、むずかしいかなァと前振りしたのち、ちがうわ! ちがうわ! ちがうわ! とやると、(…)もウケていたがそれよりも(…)ちゃんのほうが笑っていた。(…)とのチャレンジは最終的に五回連続まで続いた。
 (…)のうちまでは車で三十分ほどだった。(…)のうちと同じで(…)のうちがあるのもまだあたらしい住宅地らしくて周囲は新築ばかりだった。車からおりると、(…)が玄関に出てきた。あいかわらずガラの悪いおっさんという感じ。おおい、こいつだれね、おれこんな変な服着とる知らんぞ、とこちらのほうを見ながらにやにやしていうので、でけえ家建てやがってと尻を思いきりパチーンとやった。玄関にあがる。お腹がぱんぱんにふくらんだ(…)ちゃんと息子の(…)が出迎えてくれる。(…)は今月二歳になる。まだ会話らしい会話はできない、ただ単語を単発的に口にするだけという感じ。(…)ちゃんは見違えた。はじめて会ったのはあれはもう三年ほど前になるのか、ふたりが結婚する直前だったか直後だったかで、少なくとも(…)周辺はまだコロナの影響なんてこれっぽっちもなかったころだったと思うのだが、あのときは初対面だったからというのもあってか口数が少なかったし、いまとはちがってショートカットだった記憶もあるのだけれども全然別人であるな、街中で会っても絶対に気づくことができないなという感じ。(…)はやはり人見知りする。それ以上に尋常でないお父さんっ子で、(…)がちょっと離れようとすると、それだけで泣き出すこともたびたびある。朝の出勤前、(…)がトイレに行くときも抱っこしながら個室に入って用を足すことがあるというので、なんでまたそんなになったんだと驚いた。しかし保育園に行くのはさほど嫌がらないらしい。
 部屋にはクソデカい水槽がふたつ並べて置かれている。左の水槽のほうには金魚のカラーとカワハギのかたちを足したような魚が二匹とクソでかいアロワナが一匹いる。アロワナは以前ふたりが住んでいたアパートで飼育していたものとおなじ個体らしい。たしか(…)ちゃんから誕生日プレゼントとして買ってもらったと聞いたおぼえがあるのだが、あのときはこちらの中指程度の体長しかなかったのだが、いまとなってはヤクザのうちの玄関に飾ってある水槽に入っているやつほどデカくなっていたので、よく育ったなと思った。右の水槽には蛇のようなうなぎのような白い魚がいて、サイズ的にはドジョウよりはずっと大きいけれどもうなぎの成魚にはまだまだ満たない、しかし成長すればやはりうなぎサイズになるとかいう魚種らしいのだが、体の白さによってグレードがあり値段も違うというそいつが全部で四匹いて、そのうち三匹はそれぞれ五千円ほどだったのに対してもっとも色の白い残る一匹は八万八千円したというので、はあ!? おれの京都時代の月給より多いやんけ! となった。水槽にはほかにザリガニも複数入っていた。現場仕事でおとずれた先の用水路でつかまえたものをぶちこんだというので、高級熱帯魚とザリガニの組み合わせはちょっとおもしろいなとなった。ザリガニは熱帯魚用の水温でもまったく問題ないらしい。
 ひとときだべったのち、買い出しに向かうことに。庭にもうけたテラスでバーベキューをするという。このクソ暑いなかでバーベキューするのか、(…)さんもそうであるけれどもどうしてヤンキーというのはああもバーベキューが好きなのだろうと思いつつ、買い出しの車に乗りこむ。メンバーはこちらと(…)と(…)と(…)と(…)。つまり、男全員。近所のスーパーで買い物をしたのだが、端末付きのカートが入り口付近に設置されており、専用のアプリを使えばレジに並ばずその場で商品を精算することができる仕組みになっているようだった。しかしアプリはないので通常のカートを使用。(…)をカートに「おっちん」させて店内を巡回し、牛肉だのソーセージだのジュースだのお茶だのおにぎりだの焼きおにぎりだのを買う。刺身用のあたまのついた大きな赤エビも売っていたので、赤エビの脳味噌をチューチューするのが大好きなこちらと(…)のリクエストでそいつも買うことにしたのだが、結論だけ先に書くとそいつを食うのは忘れてしまった、実家にもどったあとになって赤エビが冷蔵庫に入れっぱなしであることを思い出して、うおーーーーーー! となった。
 スーパーで買い物を終える。帰宅する前に(…)の職場に立ち寄る。バーベキュー用の折り畳み椅子を会社に忘れたままになっているからというのが理由だったわけだが、車内の敷地には当然クレーン車が何台も停まっている。(…)がクレーン車に乗りたがるかなと思っていたが、(…)ではなかった、(…)のほうがゴネはじめた。(…)はこれまでに何度かじぶんのクレーンに(…)をのせたことがある。(…)はまたクレーンと発音することができず、クレーンのことをパパと呼ぶのだが、そのパパが視界に入るなり、あれに乗らずには絶対に帰宅しないという意味でびえーんと泣きはじめたのだ。(…)はあきらめた。こうなったらこいつはテコでも動かないのだといった。それで一瞬だけクレーンにのせてやるといってそちらのほうに歩き出したので、(…)ものせてもらおにとうながした。(…)がふだん仕事で乗っているのはクレーン車のなかでもいちばん大きな種類らしかった。車体の側面についているはしごをのばって運転席にあげてもらった(…)は満足。次は(…)の番だったが、土壇場で尻込みしはじめた。ちょっとおっきい、(…)ちゃんちっちゃいほうがいい、と別のクレーンを指さした。(…)がいうにはこういうことはしょっちゅうあるらしい。それでおなじ敷地に停めてあるいちばん小さなクレーンにのせることにしたのだが、(…)がいうにはそのクレーンの車内はむちゃくちゃ臭いらしい。たしかもうやめた人間だったと思うが、体臭のかなりきつい後輩がおり、その男が一時期専属として乗っていたクレーンであるのだが、やめてかなりの時間が経つのにいまだに車内にそのにおいがこびりついているという。(…)は抱っこしてもらうかたちでそのクレーン車の運転席にのりこんだ。(…)とこちらがそのようすを写真にとった。クレーンからおりた(…)にどうやったとたずねると、「臭くて気持ち悪かった」という反応があったので、全員爆笑した。
 帰宅。(…)と(…)のふたりはさっそく庭というかテラスに出てバーベキューの準備をしたりビニールプールに水を張ったりしはじめた。こちらはこのクソ暑い中、外に出る気になれなかったので、好物らしいマカロニサラダを食べる(…)の子守りをすることに。(…)ちゃんはテラスの(…)から指示されるがまま、冷蔵庫から肉を取り出して渡したりなんなりとたちはたらいていて、出産予定は来月であるというのにあんなに動いてだいじょうぶなんだろうかと思ったがアレか、安静にしなくていけないのはむしろ妊娠初期か、安定期以降は問題ないのか、実際あんなにおおきなお腹をしているのに(…)ちゃんはまだ産休をとっていないという話だった。ひとみしりの激しかった(…)であるが、こぼしたマカロニサラダをこちらがとってやったり汚れた手をティッシュでぬぐってやったりしているうちに心を許したのだろう、紙コップでやたら乾杯したがったり、皿に顔をつっこむようなそぶりを見せるのに「なにしとんねん!」とこちらがつっこんのだのがよほどおもしろかったのか、笑いながらおなじ動作を何度もくりかえしたりした。ほどなくして(…)ちゃんももどってきた。焼きあがった肉も一部運ばれてきたのでそのまま室内で食った。
 その後、テラス席に移動した。プールでの水遊びをすでに終えていた(…)は折りたたみ椅子をリクライニングチェアのようにして寝そべりながらソーセージを何本も食っていておまえリゾート地の成金社長かという感じだった。(…)の食欲はあいかわらずすさまじく、三歳児であるにもかかわらずおにぎりをふたつとデカい串付きのソーセージを三本も食っていた。われわれがスーパーで買った肉とは別にA5ランクだという肉を(…)夫妻は用意してくれていた。ひときれだけ食ったが、めちゃくちゃうまくて、口のなかで一瞬でとけた。われわれが食事をしているあいだ、(…)はひとりで水遊びをしていた。ビニールプールにはおなじビニールの滑り台がついていたのだが、そこで足を踏み外した(…)が顔から着水するというトラブルがあった。(…)がすぐに体を抱き起こしたので問題なかったが、(…)であれば大号泣したところだろうに、(…)はほんのちょっと泣いただけですぐにけろりとなった。あれで泣かへんの? とびっくりしてたずねると、こいつ痛みとかそういうのにはめっちゃ強いからなと(…)は言った。しかしさっきクレーンに乗りたいと駄々をこねたときのような場面では絶対に折れず最後の最後まで号泣し続けるとのことだった。

 痛みに強いで思い出したが、(…)はまだ赤ん坊のころのことだったと思うが、あたまからフローリングに落ちたことがあるらしい。(…)ちゃんが子守りしている最中のことらしいのだが、仕事中の(…)のところに泣きながら電話がかかってきて、あやまって(…)を落としてしまった、息はしているのだがぐったりしているというので、すぐに救急車を呼べと(…)のほうで指示したとのこと。結果、なんともなかったわけであるが、(…)ちゃんは看護師という職業柄、いろいろと悪い想像をしてパニックになってしまったという。
 テラスにこちらと(…)と(…)と(…)だけになる時間があった((…)は部屋で昼寝しており、(…)は(…)のトミカで遊んでいた)。(…)が(…)ちゃんのことでずいぶん我慢していることが多いと愚痴を漏らしはじめた。結婚するまであんな性格だとは思ってもいなかったと真剣な顔つきで声をほそめていう。いちばんひっかかっているのは夕飯の支度をほぼ(…)が担当している現状らしく、基本的に夕飯は先に仕事から帰ってきた人間が行うことになっている、(…)はだいたい17時には帰宅するので自分が担当することが多いのだが、一週間のうち土曜日だけといっていたろうか、(…)ちゃんの帰宅するほうがはやい日があるのだが、(…)ちゃんはそんなときは毎回(…)を連れて実家に遊びにいって、夕飯の支度はせずに結局(…)に任せたりスーパーの惣菜ですませたりする、それがとにかく気にくわない、ぶち殺してやりたくなることもあるという(物騒な表現であるが、これは(…)にとって「めちゃくちゃ腹が立つ」程度の意味合いしかない)。なんといっても(…)フィルター越しにきいた話であるから第三者によるジャッジなんてほぼ不可能であるし、そもそも相手は妊婦であるのだからもろもろ落ち着くまでは家事の大半はやはり(…)のほうで負担して当然なのではないかなどとこちらは思うわけだが、しかし実際に結婚生活を送ったこともなければまともな仕事についたこともないこちらが四の五の言ってもしょせんは絵空事でしかないかもしれない。
 でも自分のいまのこの生活が相手の稼ぎありきで成り立っていると思ったらぐっと抑えれるもんではないかと(…)がいった。あ、そういう考え方があるんだ、と思った。これは一種、夫婦のリアリティと呼べるものかもしれない。(…)はまあなあと言いつつ、それでも納得できないふうだった。(…)夫妻にしても(…)夫妻にしても夫と妻の稼ぎが同等か妻のほうがやや多いというバランスで成りたっている。
 稼ぎでいえば、(…)の仕事は高卒時の初任給がそこそこある分、昇給はその後一切ないという話をずっと以前聞いたことがあるので、その点あらためて確かめてみたところ、やはりそうであるらしい。手取りでは三十万円に満たないので、いずれ必要になる結婚生活のために本人はずっと貯金してきていた(ただし、車の改造にどハマりしていた時期は除く)。業界そのものはどうなのか、燃料代の高騰などまずいのではないかとたずねると、燃料代はさることながらクレーン車本体の値段も数年前とは比較にならないほど値上がりしている、にもかかわらず仕事の単価は以前と変わらない、じぶんはしょせん給料をもらう側の人間でしかないのであれこれいうつもりもないが、それでもこのままだと会社が傾くんではないかと心配でしかないと(…)はいった。社員は現在(…)を含めてたった五人。以前は十人ほどいたのだが、どんどん去っていき、かつ、求人をかけているにもかかわらず新人がまったく入ってこない状況が続いているとのこと。仕事自体は以前いた会社のように遠い現場まで朝はやくから出かけていく必要もないし、楽といえばずいぶん楽であるのだが、この業界で独立してなにかをはじめたいとはまったく思わないとのこと。先が見えないらしい。ちなみに社長はこの業界にはめずらしい女性。もともとは夫が社長であったのだが、その夫が二十代のときに病死したので、そのまま会社を引き継いだ。男だらけの業界のなかでこうむるデメリットもかなりあるんではないかというと、ものすごく美人なのでむしろ仕事がとりやすいというメリットもあるという。
 食事はそこそこにして部屋にもどった。リビングはエアコンをつけていないにもかかわらずすずしかった。床冷房のおかげらしい。冷やした空気が天井のサーキュレーターから吹き出してきて、それだけでもう真夏にもかかわらず冷房いらずなのだった。最近の新築はマジですごい。信じられない。子どもたちふたりはおもちゃで遊んだ。(…)は甥っ子や姪っ子が多いので、けっこうたくさんおもちゃがあった。センサーつきのパトカーがあった。後ろから手をのばすと勝手に逃げようとするのだ。モードを切り替えると、むしろ前にいる人物や前を走る別の自動車のおもちゃを自動で追跡しようとする。いまのおもちゃはこんなふうになっているのかと(…)とそろって感動した。(…)と(…)は途中でおもちゃの奪い合いになった。案の定、一歳年下の(…)が敗北し、泣きはじめた。おれさ、子どもでいちばんきらいなんはこういうおもちゃの取り合いさ、と(…)はいった。
 あきらかに(…)のものとは思えないおもちゃもいくつかあった。つまり、『ONE PIECE』のゾロのフィギュアや『エヴァンゲリオン』のアスカのフィギュアがあったのだった。前者はまだしも後者は(…)の趣味ではないだろうにと思ったところ、両方ともクレーンゲームで取ったものであるという返事。ほかにも巨大なぬいぐるみやラジコンなども取ったというのだが、いくらで取ったのかとたずねると、わりとけっこう金をかけずに取っており、どれもこれももとがとれているではないかというアレだったのだが、一度、うまい棒の100本セットだかなんだかに8000円かけてしまったことがあり、そいつのせいで収支はトントンかややマイナスになっているとのことだった。あと、(…)がかつて彼女の途絶えていた時期、本人の言葉を借りれば「童貞にもどってしまった時期」——(…)とその悪友たちのあいだでは、彼女が半年途絶えると、男はみな童貞にもどるのだ——に、さびしい身の上をなぐさめるかのようにどハマりして課金しまくっていた「グラブル」を、最近また再開したという話もあった。課金もちょこちょこしているとのこと。
 17時ごろに(…)家を去った。玄関には(…)が以前仕事で乗っていたのとおなじ車種らしい非売品のクレーンのフィギュアが置かれていたが、それが(…)にプレゼントされた。造りがたいそう細かいものだったし、非売品という話であったから、これ保存しておけばめちゃくちゃ高値がつくんではないかと思ったが、(…)が乱暴にあつかえばおそらくすぐに壊れてしまうだろう。昼食の買い出しで必要になった金について、去る前に(…)が割ろうと言いはじめたが、(…)はいらないといった。ふたりのやりとりをよそに財布から一万円出してテーブルに置いた(買い出しで使った金はちょうどそれくらいだった)。たまにはおごるわとここでも太っ腹を誇示したのだった。いまだけやで、日本に帰ってきたらどうせまた週二日しか働かんからな、そんときはまたさんざんあんたにごってもらうつもりやから、と言った。しかし先述したように、ここで支払うべきものを支払っておきながら、肝心の赤エビをまったく食わずに終わってしまったことはたいそう遺憾だ。
 (…)の車で実家に送ってもらう。(…)がまた泣いた。この車に変えてから移動中よく泣くようになったと(…)はいった。(…)も眠そうだった。昼寝をしていないのだから当然だ。(…)ちゃん眠くないで、と本人は口にしたが、(…)ちゃんにトントンされるとすぐに眠りに落ちた。その(…)ちゃんもずいぶん眠たそうだった、うつらうつらとしていた。
 帰宅。母の用意してくれておいたおもちゃ一式を受けとって車にもどる。母も(…)と(…)を見たいといって車についてきたが、寝顔を見るだけで、「盆と正月がいっぺんに来たな」を聞くことはできなかった。渡したのはブロック二種類とミニカーと折り紙で作ったコマ。
 夕飯は(…)で買ったという値引き品の惣菜。父は盆でいつもより出勤がはやいし、(…)もそれほど出かけたがるわけでもないしで、今日はもう(…)には行かなかった。食事の最中すでに眠気をもよおしていたわけだが、食後、ソファに寝転がってほどなく眠りに落ちた。二時間か三時間寝たと思う。目が覚めるとAmazonから荷物が届いていた。おみやげのクッキーだ。
 入浴。ストレッチ。きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、2022年8月12日づけの記事の読み返し。以下、2020年8月12日づけの記事より。映画版『リング』の脚本における節約術について。

『リング』。松嶋菜々子って大根だなと思った。現在執筆中の小説の性格上、意味の操作にはあまり関心が持てないので、そういう観点からの分析はしないが、脚本の節約術が見事だと思った。いま書いている小説は、こしらえた人物の背景や設定を、こしらえておきながら作中では決して説明しないというかたちで書き進めているのだが、たとえば『リング』では、松嶋菜々子真田広之が離婚した理由については触れられていないし、そもそも結婚した馴れ初めについても触れられていない。しかしそれらをみるものに十分に想像させるだけの余地が、しっかりと用意されている(離婚にはどうやら真田広之の血統的な超能力が関係しているようだと推測したり、オカルト現象を追いかけるマスコミ関係者である松嶋菜々子とはその縁で知り合ったのではないかと推測したりできる)。また、真田広之は大学で数学を教えているという設定であるが、これも、自分自身の異能に対するアンビバレンツな感情から要請された専門なのではないかという「物語」を、みるものはでっちあげることができるだろう。ここで重要なのは、そのような「物語」が劇中で言明されていれば、それはあまりに整合性がとれており、出来事を因果関係で処理しすぎであるという、いわゆる物語批判のうってつけの対象になっていただろうに、「異能」と「数学」という組み合わせに関する説明がなされていないかぎり、その空白地帯はあくまでありうべき可能性の域にペンディングされており、(反物語としての)出来事の水準にとどまっているという点だ。物語が因果関係で数珠つなぎされた出来事の線的な連鎖であるとすれば、反物語の定義とは⑴そのような連鎖から解放された出来事の面的な偏在ということになるのかもしれないが、それとは別に、⑵連鎖の内実が不明である状態というものも考えられる。「異能」と「数学」の同居は、ここで、少なくとも受け手であるこちらにたいしては、離婚理由や馴れ初めの不在とともに、⑵の意味での反物語としてせまってみえた。そこのところのさじ加減が本当にうまい。

 そのまま今日づけの記事にも着手。1時前になったところで中断し、夜食の寿司を食い、ジャンプ+の更新をチェックしながら歯磨きをすませたのち、間借りの一室に移動。書き忘れていたことが二点ある。まず一点。(…)の弟の(…)が心不全と診断されたという話を以前聞いたわけだが、それに関する続報。特発性拡張型心筋症という指定難病であることがあきらかになったという。は? とさすがになった。話を聞いたその場でググってみたところ、五年生存率がうんぬんという記述にでくわしたので、マジかよとなった。「この病気は慢性進行性のことがあり、欧米では心移植が必要となることが多く、我が国における心移植適応例の80%以上はこの病気です。厚生労働省の調査では、5年生存率は76%であり、死因の多くは心不全または不整脈です。しかし、近年薬物治療および非薬物治療が目覚ましい発展を遂げており、拡張型心筋症患者の予後はさらに改善している可能性が高いと考えられます」とのこと。
 もう一点。(…)から指摘されるまで気づかなかったが、(…)は受け口だった。口をひらいているところを見せてもらうと、なるほどたしかにそうであったので、クッキングパパやなというと、みんな笑った((…)ちゃんや(…)ちゃんの世代でもクッキングパパが通じるとは思わなかった)。クッキングパパといえば、クリスマスの時期に放送されたアニメで、パパが家族のためにクリスマスケーキを持ち帰ろうとする、しかし当日は予定外の仕事が忙しかったのだったか、帰宅が普段よりも遅れてしまい、さらに雪が道路に積もっているせいでパパのスクーターが転びそうになる、そのようすを見ていた小学生時分のこちらが、おっしぃ! 事故ればええのに! とひねた小学生らしい無邪気な言葉を満面の笑みで口にしたところ、母がブチギレ、こちらの顔面をぶったたいたのち車に連れ込み、そのまま(…)まで連行し、まだ走行中の助手席から外に蹴り飛ばされたことがあったという話をしたところ、(…)ちゃんがドン引きしていた。(…)はこの話をすでに何度も聞いているので爆笑、(…)は自分の父親からもさんざんひどいことをされていてこの手の話に慣れているのでにやにやしていた。