20240120

女性は外見をどう作り込んでいるかで、いろんなことがわかる。趣味嗜好も、パーソナリティも、おおよその金銭事情も、願望も、そのすべてが外見から発信される。
山内マリコ『あのこは貴族』)



 10時過ぎに起きて階下に移動した。(…)家は全員起きていた。クロワッサンとコーヒーの朝食をいただいた。(…)の相手をしつつ夫妻といろいろ話をした。(…)はひとが話をしているところに割り込んでくるのはやめなさいと夫妻からしょっちゅう注意されていた。あまりにしつこい場合はiPadが与えられる。すると(…)はそれで幼児向けコンテンツをおとなしく視聴しはじめるのだ。ふだんはこれほどしつこくないと(…)ちゃんは言った。こちらがいるので興奮しており、それで何度も何度もおとなの会話にトミカ片手に割りこんでくるのだった。
 (…)からたびたび叱られるために(…)はパパを恐れている((…)は(…)のことを以前のように「(…)」とは呼ばず「パパ」と呼ぶようになっていたが、(…)ちゃんのことは「(…)」と呼んだり「ママ」と呼んだりしていた、去年の夏に(…)が母親のことを「(…)」と呼んでいるのをはじめてきいたとき、ちょっと『崖の上のポニョ』の宗介とリサの関係を想起したものだった)。(…)は(…)で子どものころ父親のことがたいそうこわかったらしい(これは初耳だ!)。(…)が実家に帰省中、(…)を叱りつけているようすを見た(…)の母君は、お父さんにそっくり! と口にしたという。
 (…)は職場に財布を置き忘れてきていた。それで昼飯を食べに出かけるまえに(…)の職場に寄ることになった。社長のところの次男が会社の鍵をもっている。(…)くんという人物で、われわれの三歳ほど年下という話だった。まずはその(…)くん宅にむかった。車で三十分以上は移動したと思う。職場は以前住んでいたマンションからは近かったが、いまの新築からはかなり遠い。それが唯一の不満だと(…)は言った。(…)くんについては前々からいろいろ聞いていた。元ヤンのバンドマン。職場は元ヤンが多く、音楽といえばみんなだいたいヒップホップしかきかないのだが、(…)くんはそうではない。ギャルやヤンキーだらけの合コンでナンバーガールのNUM-AMI-DABUTZを歌ってドン引きされたこともある。(…)のうちにはアンドレ・ジッドの『地の糧』の文庫本があった。それも(…)くんに貸してもらったものらしい。たしかヨルシカだったと思うが、『地の糧』を元ネタにした楽曲があり、それで(…)くんはジッドに興味をもった。これ読んどったら病むわと言って(…)のところにもってきたのだった。ヨルシカは二年生の(…)くんが好きなバンドだ。しょうもなくないん? とたずねると、しょうもなくないという返事があった。(…)くんは離婚危機に瀕している。奥さんも元ヤンであるのだが、かなりモラハラ気味で、とにかく(…)くんに当たりが強い。それでも(…)くんは奥さんのことがずっと好きだったし文句もほとんど言わなかった(そのことを(…)夫妻は「洗脳されていた」と表現した)。いまはそうじゃない。先週仕事の昼休憩中に(…)のところにやってきて、奥さんのこと好き? 結婚してよかったと思っている? ときかれた。まあそうですねと(…)が答えると、(…)くんはなにも言わずにその場を去った。
 (…)くんの姿を車窓越しに認めた。鍵をもって近くまで出てきてくれたのだ。だれかに似ている。四十年近く生きていると、だれを見てもだれかに似ているとまず思うことになる。相手がこちらのことを知っているかどうかはわからないが、車窓越しに軽く会釈した。鍵だけ受けとってすぐに別れた。ものすごくテンションが低かったと(…)ちゃんがおどろいた。いつもはもっと明るいらしい。(…)が生まれる前は三人でよく飲みに行ったこともある。今日は仕事がないのでうちにずっといなければならない、奥さんとずっと顔を合わせている必要がある、それできっとげんなりしているのだろう。(…)の会社はいまベトナムで焼却炉をこしらえる計画がある。軌道にのれば、社員のうち何人かは現地に短期滞在する必要もあるかもしれない。(…)くんはそうなったらなにがなんでもベトナムに行くといっている。とにかく日本が合わないのだ。デキ婚する前は(…)とおなじくオーストラリアでワーホリですることも検討していたらしい。ジッドの『地の糧』を読んだことはない。読んだ(…)くんの感想が「病むわ」というのは、最初は暗い物語だからそう思ったのかなと考えたけれど、そうではなくて、ガンガン外に出て冒険していけ! めちゃくちゃに生きろ! とうながすタイプのものだったのかもしれない。寺山修司の「書を捨てよ、街へ出よ」の元ネタは『地の糧』らしい。
 社長の長男は(…)くんとは正反対で地方の国立大学を出ている。会社を継ぐのも彼のほうらしい。(…)は長男のほうとも交流がある。長男はグルメだ。月に一度くらいのペースだろうか、京都にあるうまい店を(…)とふたりではしごするのが恒例行事になっている。長男はバツイチだ。千本今出川のあたりといっていただろうか、昆布の専門店でラーメンを食べた。昆布のすばらしさをひろめたいという主人が経営している昆布専門店の二階で、一日十人限定みたいな話だったと思うが、昆布から出汁をとったスープでこしらえたラーメンを食わせてくれる。そのラーメンはすばらしかった。水出しでとった昆布出汁のテイスティングもさせてもらった。若い主人のうんちくもたくさんきいた。本当に心の底から昆布を愛しているのがわかった。(…)も昆布が好きだ。(…)はそこでさまざまな昆布を五千円以上買った。夜、そこで買ったというとろろこんぶを食わせてもらったが、うまかった。長男の話をしたのは夜、みんなが寝静まったあとだった。昼間は(…)くんの話をした。でもそれも車内ではなく、まだうちを出発する前のことだった。(…)の話もした。これもやっぱりうちにいるときだった。ひどい結婚式だった。三十路も半ばをまわった男が四人か五人、全身の毛を剃って半裸になった状態でローション遊びをしている下品で寒くて身内ノリの痛々しい動画が結婚式の余興として流された。笑っていたのは当事者だけであってほかの人間は全員顔がひきつっていた。その話は以前(…)からきいていた。動画はとにかく長かった。(…)はその長さを何度も強調した。内容に問題があるのは間違いないし、TPOに即していないのも間違いないのだが、それ以上に長すぎたと(…)は何度も言った。スピーチもひどかった。友人代表としてローションのひとりがスピーチしたらしいのだが、友人らで集団万引きをしようと計画していたところ、ただひとり(…)だけが反対した、だから(…)はとても善良なのだという趣旨のスピーチだった。これは初耳だった。あたまを抱えた。(…)の奥さんの(…)ちゃんのご両親は高齢のお堅い人物である。どういう心境であの映像を見てあのスピーチをきいたのだろうと思った。(…)もおなじ気持ちだった。だから会場では気まずかった。
 イオンに到着した。(…)は車内でもテンションが高かった。夫妻がいうには車に乗っているあいだ、いつもはおとなしく窓の外をながめていろいろな車に目をかがやかせているのに、こちらがいるということでやはり落ち着きがなくなっているのだった。もりもり寿しを食った。夏休みにここに来たときはコロナで味覚および嗅覚が死んでいたのでほとんど味がわからなかったが、べらぼうにうまかった。セットのほかにあんきもと抹茶アイスも食った。(…)はたまごとお稲荷さんと海老を食った。(…)はアイスクリームもケーキもプリンも嫌いだ。好きな食べものは切り干し大根とひじきの煮付けだ。(…)ちゃんは病気をしてからあまり外食をしていない。今日はひさびさの外食でうまかったといった。(…)の弟である(…)の奥さんも最近(…)ちゃんとおなじく子宮のほうに問題ありと診断されたらしかった。難病で余命うんぬんという話すら出ていた(…)のほうはひとまず経過観察で落ち着いている。
 食後は約束どおり(…)にトミカをふたつ買ってあげた。ミキサー車とポンプ車。(…)ちゃんがスタバで甘いものを飲みたいといったが混雑していたのでやめにした。無印で買い物をした。宇治抹茶ラテみたいなのがあったので土産に買っていくことにした。イオンを出てからはセブンイレブンセカンドストリート→バローとはしごした。京都も伊勢もおんなじだ。(…)はうちに帰るまでトミカの箱を開封してはいけないと言われていたのではやく帰りたいと何度も口にした。セカンドストリートの品揃えはよかったが、なにも買わなかった。こちらが着用しているSHIPSのコートとまったくおなじものが2000円ほどで売っていた。(…)は以前このセカンドストリートトミカの中古品を見つけた。入店する前にここでは買わないと約束してあったにもかかわらずほしいほしいと駄々をこねて大泣きした。あれは過去最高レベルの駄々だったと夫妻は言った。だから今回も店に入る前になにも買わないと約束していたのだが、(…)はおもちゃコーナーにあった近鉄電車三両編成を手にとり、これがほしいとこちらにひそかに打ち明けた。約束は約束なので、それはダメだとちゃんといいきかせた。おもちゃコーナーには二年生の(…)さんが(…)のイベントでコスプレしていた『Re:ゼロから始める異世界生活』のピンク色の髪をした女の子のフィギュアがあった。写真を撮って微信で送った。そんなに安い値段で買うことができるなんて日本は天国ですという返信がすぐに届いた。バローの店内では食材を買い込む夫妻をよそに(…)のお守りをした。(…)はしきりに抱っこをせがんだ。抱っこしてやるとこちらのほっぺたに何度もキスをした。頬をふくらませてやると、その頬を指先で押そうとした。その指に合わせて口から空気を吐きだして屁みたいな音をたててやると、ケラケラ笑った。店内ではそれを何度も何度もくりかえした。バローにはめちゃくちゃ上等な刺身が売っていた。昼飯が遅かったこともあり、大食いの(…)はともかく、こちらも(…)ちゃんもほとんど腹が減っておらず、だから量を調整しやすいたこ焼きを夕飯に食べようという話になっていたのだが、あまりにうまそうだったのでその刺身も結局買った。
 たこ焼きの調理は(…)の仕事だった。(…)は食後にカレーまで仕込みはじめた。週末にカレーを大量にしこんだのを平日昼食として会社に持っていっているらしい。ほとんど毎日カレーを食べているということだ。イチローだ。たこ焼きはうまかった。(…)は食事を終えたあとトミカで遊びはじめた。ウーウーと口でサイレンの音を出しながらあちこちで車を走らせるのだった。(…)ちゃんはバタバタしてイライラしているときなど、サイレンだけはやめて! と(…)にお願いすることがあるといった。
 食後は子どもふたりを遊ばせておいて大人三人食卓にそろっていろいろ話した。(…)がちょくちょくこちらといっしょにトミカで遊ぼうと誘いをかけてくるのを見かねた夫妻がiPadを貸し与えた。すると(…)はすぐにおとなしくなるのだった。(…)がギャン泣きしはじめると(…)は毎回iPhoneから反町隆史のPOISONを流した。POISONで赤ん坊が泣き止むというのは有名な話らしい。しかし(…)ちゃんがいうには、最近(…)にはPOISONがあまり効かなくなってきている。毒耐性を得たのだ。


 
 (…)ちゃんの周囲には結婚生活があまりうまくいっていない友人が複数いる。(…)は特にひどい。第一子を妊娠中に旦那がうちにデリヘルを呼んだ。のみならず部屋の隅っこにスマホを仕掛けてそのようすを盗撮していた。(…)は旦那のスマホをなんとなく盗み見してその事実を発見した。悩んだ結果旦那の両親にすべて打ち明けた。義母は平身低頭だった。(…)の好きにしていいといった。自分が(…)の立場であったら別れるとまで言った。旦那は父親からボコボコにされた。(…)は離婚しなかった。子どものことがあるからだ。しかし旦那のことを生理的に受け付けられなくなった。だから制欲処理の名目で月に何万円かの小遣いをあたえている。外で発散してこいというわけだ。あるときまた旦那のスマホを盗み見た。キャバ嬢を必死でくどいているLINEの履歴が残っていた。相手はあきらかに第一線を越えないように拒絶の身ぶりをとりつづけている。旦那はそんな相手のサインに気づかず延々と口説き続けている。(…)はすぐに相手のキャバ嬢に謝罪のLINEを送った。そして旦那を叱った。てめえまだ懲りてねえのかよと怒鳴った。(…)としては風俗なりなんなりで周囲に迷惑をかけず割り切って性欲を発散してこいという意味で小遣いを渡していた。旦那は嫌がるキャバ嬢に執拗にアプローチし続けていた。ひとさまに迷惑をかけるそのふるまいがあたまにくるのだった。(…)は離婚間近だと思うと(…)ちゃんはいった。(…)は旦那のことが別に好みではなかった。三十歳を前にして結婚を焦ったのかもしれなかった。顔が好みでもなんでもない相手であるのに結婚したあげくこんなことになってと恨み言を言った。(…)ちゃんのことをうらやましいと言った。(…)ちゃんと(…)は自然な流れで出会い、恋愛し、結婚した。そういうほうがよかったと言うのだった。(…)ちゃんは26歳から28歳ごろにかけて毎月のように友人の結婚式に出席したといった。マッチングアプリで出会ったひとが多いらしかった。(…)ちゃんはマッチングアプリで出会ったひとと結婚するのは怖いといった。その気持ちは少しわかる。いまの若い世代はそうでもないだろうが、われわれの世代はいわゆる「出会い系」のアングラなイメージを継承している。(…)の旦那はときどき(…)の身体をもとめようとする。もうそろそろいいだろう。ほとぼりもいい加減さめただろう。そういうあさはかな考えが透けてみえる。だから(…)はますますイライラする。生理的に受けつけない。
 (…)の会社の後輩に(…)という若い男がいる。ドラッグ全般大好きで、たびたび(…)に大麻を引いてきましょうかと提案してくる人物だ。(…)は一時期自分で撮影したハメ撮りを売り捌いていた。(…)の父親はヤクザだ。いまは引退している。結婚のあいさつのために妻の実家をはじめておとずれたとき、(…)はフロントにFUCK YOUとプリントされたトレーナーを着ていった。
 (…)も(…)も寝る時間だった。(…)はまた叱られた。iPadを片付けて寝る準備をするようにと言われたにもかかわらず聞こえていないふりをしたのだった。最近はよくそんなふうに挑んでくるのだと(…)ちゃんは言った。相手が怒るぎりぎりのラインまで抵抗してみせるということなのだろうが、(…)に叱られると結局すぐにギャン泣きするのだった。(…)ちゃんも呆れていた。そのときすでに(…)は夜泣きをはじめていた。そこにくわわるようにして泣きはじめた(…)に対して、もうケンカせんといてくれといらただしげに漏らした。もしかしたらその言葉はいくらか(…)にむけられたものでもあったかもしれない。(…)ちゃんは泣きじゃくる(…)と(…)を連れて上にあがった。(…)は近くにある銭湯にいっしょに行こうとこちらに言った。母子三人が上にあがってまだ五分も経っていなかったと思うが、荷物を回収するために上にあがっていった(…)がもどってくるなり、ふたりとももう寝とると苦笑して言った。(…)は朝から終始テンションが高く、昼寝もまったくしていなかった。それにくわえて最後の最後で号泣した。その疲れで布団に横になるなり一瞬で寝落ちしたのだった。あんなに怒る必要ないんやけどな、と(…)が反省するように漏らしたのはこのときだったかもしれない。
 源氏の湯はまだオープンして数年らしかった。(…)はまだおとずれたことがない。(…)ちゃんはリフレッシュのために何度かひとりでおとずれたことがある。いつもガラガラなので本当にのんびり過ごすことができるという話だったが、駐車場はいっぱいだった。週末とはいえすでに22時をまわっていた。ひとが多い銭湯ほどのんびりできない空間もない。源氏の湯の入り口には駅の改札みたいなものがあった。靴箱の鍵についているバーコードだったか券売機で買ったチケットだったかをそこに読みこませて入場する仕組みだった。料金の支払いは帰路に改札のむこうでおこなう。浴場は広かった。たしかにひとはたくさんいたが、露天風呂のスペースがかなりひろく、ふたりそろってのびのびできるだけのゆとりがあった。露天風呂の半分ほどは浅瀬になっており、いわゆる半身浴ができるようになっていた。最初にしっかりと湯に浸かったあと、洗い場であたまと体を洗い、その後はずっと半身浴のところにいた。一時間半も銭湯にいたのははじめてのことだった。こちらはサウナをまったく好まない。あれのよさがまったく理解できない。(…)も好きではないという。サウナで整うとかいうけれどもあれは健康に悪いのではないかといった。体をぶっこわして脳内物質を分泌しているだけだと応じた。大麻LSDをやったほうがはやいとうそぶいた。
 在宅中は主に(…)ちゃんの友人まわりの話をきいたが、半身浴のあいだは主に(…)の友人まわりの話をきいた。やはり結婚生活のうまくいっていない夫婦が多い。中学時代の同級生の(…)くんが離婚したという話をきいた。奥さんからのDVが原因らしい。(…)くんは優等生だった。額にほくろがひとつあるので、千昌夫とか仙水忍とか呼ばれていたが、運動神経もよく、長身で、勉強もよくできるタイプだったので、イジめられていたわけではまったくなかった。中学二年生のときに下ネタをおぼえてからはエロキャラにキャラ変し、離れたクラスにいる同級生からAVを借りるためにわざわざ学生鞄をサラリーマンの手提げかばんみたいにして持ちながら長い廊下を端から端まで歩くその姿を見かけたこちらを含む事情通らが、(…)くん! なんで休み時間に鞄持っとんや! と爆笑しながらはやしたてた一幕をよくおぼえている。(…)くんは一度、同級生の(…)が廊下の窓から外をながめている背後に近づき、「(…)くん、隙ありー!」といいながらカンチョーを試みた。そして両手の指先を捻挫した。捻挫が治ったあと、もうカンチョーすんなよとみんなからからかわれていた(…)くんだったが、またしても(…)にカンチョーを試みた。そして今度は両手の指を骨折した。
 高校の柔道部の先輩である(…)くんの話も出た。おなじ柔道部員だった(…)と結婚した。(…)は高校卒業後もこのふたりとわりと頻繁に連絡をとりあっている。子どももすでにふたりいる。その(…)くんと(…)もいまは別居している。(…)くんは芸大を卒業後、自転車屋で働いているときいていた。(…)くんは多趣味だ。そのときそのときハマったことに没頭してしまう。そして子どものために貯めていたお金も平気で使ってしまう。最近は外国のムカデの飼育にハマっている。(…)は(…)くんについて他人の気持ちを理解することができないひとだと評した。(…)もそれはよくわかるという。しかるべき医院をおとずれたらなんらかの診断はくだされるだろうというのだ。(…)は(…)でかなり依存体質でありかつヒステリックな反応をていすることが多い。だから(…)はどっちもどっちだと思うという。(…)はいま(…)のゴルフ場で受付をしている。(…)くんは子どもをふたり連れて(…)にもどり、理学療法士かなにかの専門学校に通っている。
 (…)マネの話も出た。(…)マネージャーか(…)マネージャーかどちらか知らない。(…)が(…)でバイトしていた当時のマネージャーだ。こちらは名前だけ知っている。こちらが(…)でバイトしはじめたころにはすでに(…)マネは退職していた。その(…)マネも離婚した。いまは介護関係の仕事をしている。その職場で出会った26歳年下の女の子と再婚した。デキ婚だった。もともと年上の男性がタイプなのだと26歳年下の女の子はいった。病んでる子やろとたずねた。ビンゴだった。リストカットアームカットの痕がおびただしい。結婚のあいさつに出向いたとき、相手の親からは認めないと言われた。ひとりめは相手の親の命令でおろした。しかしふたりめを妊娠した。ふたりめは産んだ。(…)マネは相手の実家に出禁を食らっているが、いちおう結婚生活は続いている。転移と幻滅と〈知〉を想定された主体の話をした。(…)は自分の結婚生活に満足していた。一般的には他人と比較するのはよくないというけど……といって苦笑した。
 セブンイレブンで75000円×2をおろし、ジュースとサラダを買った。帰宅したあともずっと全身ぽかぽかしていた。足の裏まで温かかった。