20240227

高い高い草から
アスファルトの運動場の縁へと
ぼくは君がぼくを観察するのを見る
 
ぼくはぼくに見られてるのに気づいていない君を見る
ぼくがかすめ取る盗み見の一つひとつが
ぼくの生命に一日を加える
 
近ごろ君はつかまえにくい
あるいはぼくが耄碌してきたのか
君かぼくのどちらかが確かに負けようとしている
サム・シェパード畑中佳樹・訳『モーテル・クロニクルズ』 p.177)



 10時半起床。寝床にとどまりスマホでニュースを見る。いま、いきおいあまって「スマホでぽちぽちニュースを見る」と書きそうになったのだが、もはや携帯電話をぽちぽちする時代ではないのだ。じゃあ、どう表現すればいいのか? 画面をタップしてスクロールさせるあのようすは? ひゅんひゅん?
 トースト二枚と白湯。食後のコーヒーを淹れて、12時から15時半まで「実弾(仮)」第五稿作文。シーン22とシーン23を片付ける。これはけっこういい小説かもしれないと思った。
 外出。ケッタに空気を入れる。後輪の虫ゴムがやっぱりはずれない。おもいきりひねってみるのだが、びくともしない。空気がめちゃくちゃ抜けているわけでもないのでそのまま出発。まず(…)楼の快递で荷物回収。コーヒー用のネルフィルター。南門からキャンパスの外に出て、(…)で食パン三袋購入。前回と別のおばちゃんがレジに入っていたので、例によって、おー! 帰ってきたか! からはじまるみじかい立ち話。それから后街の(…)で鱼头面を食す。クソ美味い。絶対麻薬が入っている。最後にセブンイレブンでおにぎりと焼き鳥を購入して帰宅。
 おにぎりと焼き鳥を食し、ベッドに移動して30分の仮眠。それから雑巾でフローリングの拭き掃除をすませ、ウォーターサーバーもついでに掃除してbottle waterをセッティング。
 チェンマイのゲストハウス以下のシャワーを浴び、ネルドリップでコーヒーを淹れる。フローリングがかすかににおう。どうやら雑巾のにおいがついてしまったらしい。「油断しました…!!」(セルピコ)。明日雑巾を洗濯機で洗ってからもういちど拭き掃除をしなおそう。においで思い出したので、ルームフレグランスを淘宝でポチる。
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、1年前と10年前の日記を読み返す。以下、2014年2月27日づけの記事より。

 真実と虚偽の混淆においては、真実は虚偽を際立たせ、虚偽は真実を信じることを妨げる。本物の嵐で難破した本物の船の甲板に立って、遭難の恐怖を演じてみせている一人の俳優。われわれは俳優も、船も、嵐も信じない。
ロベール・ブレッソン/松浦寿輝・訳『シネマトグラフ覚書』)

 以下も同日づけの記事より。『どくろ杯』(金子光晴)について。このくだりの衝撃はいまでもよくおぼえている。本当にすごいと思う。

キャバレーの描写のなかで出てきた《振袖に、胸高帯の、いずれも大柄な、うんこの太そうな女たちが踊っていた》という一行に笑いかけたが、いやこれはすさまじい一行だと思いなおした。ここまで思いきった修辞を笑いのコンテクストからはずしたうえで使いこなすことのできる人物がこの書き手以外にまったくもって思いあたらない!

 あと、「じぶんにとって一年という単位は、夏の期待と、夏と、夏の余韻だけで成り立っているような気がする」という一行も書きつけられており、まあたしかにいまでもそうかもしれんと思った。いや、冬の寒さは当然意識せざるをえないわけだが、でもたとえば、春や夏や秋に冬を思ってワクワクするということがまったくない。逆に、冬や春には夏を思ってワクワクするし、秋にはたしかに過ぎ去ってしまったものの余韻にひたる感傷的な一時期がおとずれる。日本で会社勤めをしていれば、クリスマスから年末にかけてのはなやかな気忙しさを楽しむ機会もあるのかもしれないし、それがフックとなって冬を冬でない季節のただなかでなつかしく思ったりその到来を期待したりすることもあるのかもしれないが、いまのじぶんの生活のなかにはそうしたもろもろの感情が一切ない。

 授業開始日は4日であるが、キャリーケースを運ぶ学生の姿は今日の日中すでにぽつりぽつり見かけたし、日本語学科の学生たちもぼちぼちもどってくるかもしれない。もどってきたらきっとまた食事だの散歩だの誘いがあるだろうから、そのまえにやるべきことをやっておいたほうがいいなというわけで、冷食の餃子で腹ごしらえをすませたのち、初回の授業でおこなうことが毎学期恒例となっているお土産争奪戦のゲームを作成することに。一年生は以前こしらえたものをそのまま応用すれば問題ないが、二年生と三年生については新規作成する必要があるので、「パーセントファイト」でググって出てきた問題のなかからめぼしいものをピックアップする。数の揃ったところで中断。来学期の時間割をA4用紙に手書きしてデスク前の壁に貼る。はやく夏休みになってほしいなァ!