20240304

 今になってみれば「低地」は不愉快だと言っても、「エントロピー」を見なければならないときの心のわびしさに比べれば何でもない。この短編は新米の作家がいつも、犯さないようにと警告されている、手続き上の誤りの好例である。一つのテーマ、象徴、あるいは他の、統一のための因子をまず考えて、それから無理やり人物や出来事をそれに合わせるようにするのはまちがっているとしか言いようがない。
トマス・ピンチョン/志村正雄訳『スロー・ラーナー』より「スロー・ラーナー(のろまな子)序」 p.21)



 10時起床。Lから微信が届く。明日の午後4時半にオフィスに来てくれ、と。そこから彼女の運転する車に乗って晩餐会の会場に向かう段取りらしい。
 第五食堂へ。二階の店もオープンしている。打包したものを帰宅して食す。
 12時過ぎから16時半まで「実弾(仮)」第五稿作文。途中、微信でまた美女の自撮りをアイコンにしたアカウントからの友達申請がある。こちらのことを日本在住のガイドと思いこんでいる。否定すると、友人からガイドとしてあなたのアカウントを紹介されたのだと続ける。その友人がまちがったIDをそっちに教えたのだろう、もういちど当たってみろと応じると、謝罪ののち、せっかくだからこの機会に友人になれないかしら——というお決まりの展開。これで三回目だ。返信はしない。
 二年生のC・Gくんからも微信。(…)大学との交流会があるので明日の授業を途中で抜けなければならないというメッセージが、なぜか手書きの作文を写真に撮ったかたちで送られてくる。授業に出席する必要はないと返信。
 ケッタにのって后街の快递にむかう。おもてはまずまずの雨降りだったが、めんどうくさいので傘は差さない。結果、そこそこの濡れねずみと化す。めがねが水滴でいっぱいになって視界もあやしくなる。后街で三年生のS・Sさんから声をかけられる。彼氏と相合傘している。また明日ね! と応じる(彼女は(…)大学との交流会に学生代表として参加する)。快递で荷物を回収したのち、(…)に立ち寄って食パンを二袋買う。阿姨から雨が降っているのに傘をささないのかと言われる。めんどうなんだと受ける。店を出た先で今度は三年生のY・GさんとE・Yさんのコンビから声がかかる。Y・Gさんが快递で回収したものらしき小包を抱えていたので、それなに? とたずねると、化粧品! という返事。Y・Gさんはメイクが大好きなのだ。
 第五食堂の二階でふたたび打包して帰宅。食後チェンマイのシャワーを浴び、ストレッチをし、コーヒーを飲みながらきのうづけの記事にとりかかる。途中、K先生から微信。明日の午前中に予定されている(…)大学の歓迎会にて、歓迎の言葉を日本語訳して伝える必要があるのだが、その原稿をチェックしてほしいとのこと。こうして翻訳チェックの仕事をするのもひさしぶりだなと思いながら二種類の文章に手を加える。K先生からは意味さえ通れば細部に拘泥する必要はないというような言葉があったが、そういういい加減な仕事はなかなかできないのがこちらの性分なのだ。午前中の歓迎会には両校の教員および学生も出席するらしい。こちらも午前中に授業が入っていなければ出席することになっていただろう。出席者一覧は以下のようになっている。

(…)

 このメンツに両校の学生6名ずつが参加。晩餐会もこのメンバーでやるのかもしれない。となると、けっこう堅苦しいムードになるんだろうか? めんどくさいなあ。午前中の歓迎会はK先生がひとりで通訳を担当しなくてはならない。それはけっこうしんどいだろうなと思う。晩餐会には(…)先生も出席するんですよねというので、そのつもりです、英語になってしまいますが通訳の手助けもできると思いますと受けると、「それは助かります!」とのこと。しかし教員の顔ぶれを見るかぎり、「(…)教授」というのはもともと中国人で日本国籍を取得したひとだから通訳は必要ないだろうし、「(…)教授」というひとも教授であるのだからおそらく英語は問題ないだろう(というか、こちらよりよほど達者にちがいない)。だからこちらが手助けする必要があるのはおそらく「(…)先生」「(…)先生」の両名および6人の学生ということになるはず。というか、これを書いているいま、「(…)先生」「(…)先生」のふたりの名前をググってみたところ、前者はメゾソプラノの歌手、後者はピアニストであることが判明して、なるほど! だからうちの大学の側の出席者に「音楽舞踊学院院長」の名前があるのか!
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、1年前の記事と10年前の記事を読みかえす。10年前の記事、たいそうおもしろかった。2014年3月4日づけのもの。父方の祖母の葬儀に参加した一日のことが書かれているのだが、この記事一本だけでなにかが成立しているなという出来栄えだった。必読。

 寝床に移動後、『中国では書けない中国の話』(余華/飯塚容・訳)の続きを読み進めて就寝。