20240529

 家を建てるのだったら、まず土台をしっかり作り、次に柱を立てて、その次に屋根の骨組を作って、という順番があるけれど、小説を書くというのはとりあえず柱を一本立て、その柱を一本立てたことが同時に土台を少し作ることにも屋根を少し作ることにもなるような、手順が保証されていない作業であって、とりあえず立ててみた柱がダメそうなら、別のところに柱を立てるか、それより短い柱にしてみるかというような試行錯誤なのだ——といっても、こんな喩えはあくまでも喩えでしかないが。
保坂和志『小説、世界の奏でる音楽』 p.374-375)



 8時15分起床。10時から一年生2班の日語会話(二)。期末試験について説明し、「道案内」の復習をする。休憩時間中、H.Kさんからチョコをもらう。「道案内」復習中は空気がややだれたが、これは仕方ない、ひとりずつ指名するかたちで授業を進めていくパターンではどうしてもそうなる。K.Kさんの「道案内」は完璧だった。いますぐ期末試験に挑んでも余裕で満点とれるレベル。発音もかなりすばらしかったのでそう告げると、教室内で拍手が巻き起こった。中国の教室、ときどきこういう現象が生じる。C.Eさんの発音もよろしい。
 授業を終える。S.Gくんと廊下ですれちがう。リスニングの授業だったという。ケッタに乗って新校区にもどる。湖沿いを走る道路で渋滞が発生している。車道の両側を歩く大量の歩行者によってせばめられた道路上で対向する車が二台動けなくなっているようす。後続するケッタやバイクがその二台のせいでせきとめられている。動けなくなっているその二台さえきちんとすれちがうことができたら、その背後でせきとめられているケッタにしてもバイクにしてもふたたびスムーズに流れだすことはだれが見ても明白であるのに、当のケッタやバイクらがにらめっこ中の車の隙間を無理やり縫うようにして先へと先へとわれさきに進もうとするせいで、車は道の端に身を寄せるなりバックするなりといった身動きをとることがいっさいできずにいる。こうした場面にはしょっちゅうでくわすし、でくわすそのたびごとにこの社会の縮図であるなと思う。だれもが目先の利益をもとめてわれさきに動こうとし、全員で最小限の不利益を分かち合うことで構造的問題を解決するという姿勢をとらない。両車線のケッタおよびバイクがほんの三十秒でも停止すればいいのに、それだけで車は無事にすれちがうことができて詰まったものがふたたび流れだすというのに、その三十秒に対する想像力をだれも働かせようとしない。「ヤレヤレ ┐(´ー`)┌ マイッタネ」
 第五食堂で閑古鳥の広州料理を打包。帰宅後、メシ喰うないや喰う。洗濯機を二度まわす。衣類を干しに阳台にたったところで、また床が水浸しになっていることに気づく。排水溝がまたしてもふえふえわかめちゃんによって詰まったのだ。洗濯機のホースにしょっちゅうあらわれては詰まることをくりかえすこの謎のふえふえわかめちゃんについてはLには報告せずそのままにしている。たぶん水道管や貯水槽の問題なのだと思う、藻がわきまくっているのだと思う。中国の水道水はいちおう煮沸すれば飲料水として使用できるという話であるが、こういうのを目の当たりにしているのでなかなかその気になれない。餃子を茹でる程度のことであれば水道水でも抵抗はないが、ラーメンを作るとなるとやっぱりミネラルウォーターでないと嫌だ。
 きのうづけの記事を書いて投稿し、ウェブ各所を巡回し、1年前と10年前の記事を読み返す。2023年5月29日づけの記事に辻田絢菜《セーブ・ポイント》に対する言及があったので、YouTubeでひさしぶりに演奏動画を流し、やっぱりいい曲だなァと思った。あと、S.Sくんがコロナに感染後、「水だけなぜか奇妙に甘く感じた」という後遺症にしばらく悩まされたことが記されており、やっぱり! これワシが先月? 先々月? になったやつとおんなじやんけ! となった。
 夕飯も第五食堂で打包。メシ喰うないや喰う。食後、昼寝だけでは物足りなかったので夕寝をする。チェンマイのシャワーを浴びる。シャワー、今学期最悪レベルのつまり具合。湯がほぼ出ない。やっぱり工事に入ってもらったほうがいいかもしれない。数日続くようだったらLに連絡する。
 明日の授業で使用する資料を作成し、ネルを煮沸する。「田舎の善人」をモデルにした小説の構想がおりてきたので、軽くメモをとりはじめたところ、あれよあれよというまに大枠がかたまりだしたので、「実弾(仮)」第五稿が片付いたタイミングでそっちも書き出してみようかなと思った。30枚から50枚くらいの短篇。
 一年生1班のK.Uくんから授業で紹介した早口言葉の録音がさっそく送られてきた。早口言葉は例年レベル1から5までの五種類用意する。「できました!」と録音を送ってくる学生はそれなりにいるが、だいたいレベル1からレベル3のものをピックアップするのがふつうであるのに対し、K.Uくんはいきなりレベル4とレベル5の録音を送ってよこした。授業が終わってからずっと練習していたらしく喉が痛いという。「ラバかロバかロバかラバか分からないのでラバとロバを比べたらロバかラバか分からなかった」は見事にできていた。「この子なかなかカタカナ書けなかったな、泣かなかったかな?」は促音に問題アリ。