20130212

「(…)昔、『戦争と平和』の哲学的な部分をすべて暗記するという苦行を自分に課したことがある。(…)だけど、この間気づいたんだが、あの本のなかで覚えているのは、結局、ナポレオンの脚がつったという部分だけなんだ――」
マルカム・ラウリー斎藤兆史・監訳/渡辺暁・山崎暁子・共訳『火山の下』)

(…)良心が人に後悔を迫るのは、それが未来を変える可能性があるときだけだ。
マルカム・ラウリー斎藤兆史・監訳/渡辺暁・山崎暁子・共訳『火山の下』)



10時半起床。たっぷり寝た。胃の調子も悪くない。ブログ書く。出かける気になれないので執筆は夜にまわすことにしてジャン・ルノワール『獣人』。とちゅう急激に空腹を感じはじめたので(…)が職場から持ってきてくれた冷凍チャーハンの最後のひとつとヨーグルトを食べる。チャーハンにはとろけるチーズ、ヨーグルトにはクリームチーズをいれるなど傍若無人な食欲。食後はむろん眠気に見舞われる。満腹のひとときに眠気に見舞われないことがない。気絶するように眠りに落ち、目覚めたらば18時。一度だらけてしまうとその日はとことんだらけてしまいたくなるのが時間割生活の弊害、ハレとケの二分法を徹底したくなるのがならいであるわけなのだが、そこをえいやっとがんばって持ち直すためにとりあえずゴミ箱の中のゴミをまとめてゴミ袋に収納し、いつのまにか降り出している雨の中から朝に干した洗濯物を救い出すなどして、テンションを切り替えた。それから二日ほど前からパンクしたままになっている自転車の後輪を修理するために徒歩で10秒の自転車屋に出かけてブツをあずけ、そのまま徒歩で生鮮館に買い出しに出かけた。買い物を終えてから自転車屋にもどる途中、見知らぬ西洋人男性ふたりから日本語で声をかけられた。おおかた宗教の勧誘だろうと思ったらそのとおりで、声をかけてきた男のほうはなぜか二度にわたってわたしの名前は◯◯と申しますといった。カトリックですか、と意地悪な質問をすると、いいえそうではなくて……といって名刺のようなものを差し出したので、雨の中で立ち話するのも面倒だし、「偶景」にもなりがたいシチュエーションのように思われたのもあって、奪いとるようにその名刺を受け取るだけ受け取ると、気が向いたら行きますねとだけ言い残して颯爽と立ち去った。後に残された男が、虚を突かれた人間の表情を浮かべていたのが印象的だった。名刺には末日聖徒と記されてあって、エホバじゃないのかと思って帰宅してから調べてみたところ、なんてことはない、モルモン教のことだった。
帰宅後はジョギングするつもりだったものの、雨脚が想像以上に強くなっていたので翌日にまわすことにして、筋トレだけすませてからだらしのない部屋着のまま近所の王将に出かけ、無料券で餃子を一人前おもちかえり(容器代10円お支払い)し、自室で米と納豆と餃子による黄金のデルタを貪りながら『獣人』の続きを観た。雨降りの夜に逢瀬するふたりの姿をとらえたカメラがそのふたりを置き去りにするようにして地面に置かれたバケツにホースの水がそそがれている様子にパンしてしばらく、雨が降り止み画面がいくらかなり明るくなったところでふたたびカメラが動き出してことを終えたらしいふたりの姿をとらえるという、カットを割ることなく時間の大幅な経過を表象してみせる古典的な技法のしかし発明されたばかりのような不格好な瑞々しさ、あるいは、そのときふたたびとらえられたふたりが頬を寄せ合いながら同一方向をながめるそのおきまりの角度。夜や薄暗がりの室内でのシーンが多い中でいかに光を取り扱ってみせるかという難問にたいするあざやかな回答のいくつか。鏡(水たまり)の使用。線路を歩くジャン・ギャバンを正面やや高い位置から(おそらくは蒸気機関車の目線から)とらえたすばらしいショット――遺伝子に宿る病を有するとされるジャン・ギャバンが敷かれたレールに沿って進むほかない機関車の乗り手として設定されていることを思うと、自らの両脚でもって線路上を歩く彼の姿を蒸気機関車目線で正面からとらえたクライマックス付近のこのショットもじつに象徴的である(それをいえば走行中の列車から飛び降りての自殺という選択も、そしてその結果がレールの外に投げ出された遺体であるという事実もなにごとかを物語っているようにみえる)。
クソ寒いなか入浴を終えたのが22時過ぎだったか、それから自室にて「偶景」執筆。ひとまず0時半まで。5つ追加。計136枚。ウェブ巡回などすませたのち2時半から今度は「邪道」。しかし一時間ともたずに力つきる。日中あれだけ眠ったにもかかわらず朝が近づくとそれだけで眠気が舞い込むのだから習慣というのはすごい。布団に転がり込んで『その男ゾルバ』の続きを読み、眠りに落ちたのはおそらく5時半ごろ。
なんとなくタトゥーをいれたい気持ちは以前よりぼちぼちあったけれど、今日心臓の上にいれるのってありかもしれないとふと思った。どんな図柄がいいものかまだ決めかねているけれど、幾何学模様よりはトーテムとか守護霊みたいな感じでひとつの生き物を彫ったほうが面白そうに思えてきた。鳥か魚がいいな。地上に住むのもいい加減飽きてきたし。(…)はたしかトンボのタトゥーをいれるつもりだといっていた。でもそれはなんとかいう映画の話であって、じっさいはじぶんに見合った動物や昆虫の発見を待っているところだといっていた気もする。