20140627

(…)上海の苦力たちは、寧波(ニンポオ)あたりから出てきた出稼ぎの細民で、なかには、倒産しかけた一家を助けるため、資金稼ぎに出てきている商人(あきんど)くずれなどもいる。師走前には、梶棒を捨てて、裸のからだに泥を塗って、強盗を働くものもあり、青幇党(チンパンタン)の杯をもらって、ばくちやその他の悪稼ぎに足を突込むものもある。客をのせればゆく先もきかず、暗雲に走りだす。文字通り彼らは、じぶんのいのちを削って生きる。厳寒でも裸足で、腫物のつぶれたきたない背中を、雨に洗わせて走る。客は、その河童あたまを靴の先で蹴りながら、ゆく方向を教える。人力車は、もとは日本からわたったものであるが、日本の車夫のようなきれいごとでは立ちゆかぬほど、たった二十枚の銅貨(ドンペ)を稼ぐことがむずかしいのだ。苦力ばかりあいてのめし屋がどこにもあり、荒っぽいが栄養はたっぷりの牛の臓腑のぐつぐつ煮たものをたべさせる。二十枚のドンペで、どうやら飢をしのぐに足りる。ドンペは四百何十枚でなければ、一元にならない。私のいたころの元の相場は、日本の円とパアで通じた。黄軛車(ワンポツォ)苦力には、金への執着と、食欲しかない。性欲は、贅沢の沙汰だ。上海の旧城の外には、苦力あいてのいかがわしいのぞきからくりがあり、それをのぞきながら手淫するのが、最上の処理の方法だったりしたが、蒋介石の治下になってからは、阿片追放、グロテスクな見世物、人間の皮膚をすこしずつ剥いでそのあとに動物の毛皮を植えつけた熊男や、生れるとすぐ嬰児を箱に入れ、十年、十五年育てた小男の背に、つくりものの羽をつけた「蝙蝠」の見世物なども、禁制になって影を消した。蝙蝠は、蝠が福のあて字で、目出度いと言うので、商人に縁起をかつがれ、大きにはやった見世物であった。むろん、卑猥な見世物・磨鏡(モウチン)(女同士の性交をみせるもの)や、戸の節穴からみせる性交の場面なども禁じられてしまった。たしかに苦力たちは、欲望の世界で、欲望を抑圧された危険なかたまりで、その発火を、自然発火にしろ、放火にしろ、おそるるあまり、周囲の人たちは、彼らがじぶんたちと同等の人間であることを意識して不逞な観念を抱くようなことのないように、人間以下のものであるらしく、ぞんざいに、冷酷に、非道にあつかって、そうあってふしぎはないものと本人が進んでおもいこむようにしむけた。そういう変質的なまであくどいことに就いては、中国人は天才であった。
金子光晴『どくろ杯』)



 4時起床。のどの痛みがなかなか引いてくれない。のどぬ〜るスプレーも底が尽きた。職場で葛根湯でも服用しておいたほうがいいかもしれない。悪化させたくない。歯をみがき顔をあらいストレッチをしてからパンの耳とホットコーヒーの朝食をとって昨日づけのブログを投稿すると5時だった。それから7時まで「G」と取っ組みあった。枚数変わらず252枚。改稿は212番まで。まずまずの調子。いちどの作業につき最低でもひとつの断章を削除しているデリートの鬼と化してひさしい現状であるが、それでもときおりはじぶんで書いたとはおもえないほどうねうねしながらキレッキレみたいなありえないバランスを達成している一文に出くわすことがあって、こういうのがあるとすごいなぐさめになる、捨てたもんじゃないと思う、じぶんの営為にじぶんという営為がはげまされている。
 労働。金曜日の昼間はふしぎにヒマであると聞いていたのだが、じっさい午前中はガラガラで、ひさしぶりにゆっくりと内職してすごすことができた。Eさんがコンビニで昼飯を購入しがてらまたバキの総集編を一冊買ってきて、ちょうど刃牙とピクルが闘うあたりだったのだけれど、茂木健一郎が出てきたシーンでまず死ぬほど爆笑し、次いでオバマが勇次郎相手に聖書をたずさえてアメリカ合衆国が彼と敵対しないことを宣誓する場面でゲラゲラ笑い、さらにはイエスウィーキャンをもじったイエスユークッドというひとことでその挿話がしめられているのを見てこの作者はやはり天才だと腹のよじれるほど笑いながら思った。こっちが吹き出すたびにおまえいちいち笑いすぎやろとつっこんでいたEさんにしたところで、いざ本人がブツを手にして読みはじめると五分も経たないうちにぶふーっと吹き出してゲラゲラ笑って、そのたびにこっちも思い出し笑いするものだからどうしようもなかった。バキは本当におもしろい。
 ひさしぶりに体重をはかってみたら58キロに落ちていてショックだった。60キロに達したあの数日とはいったい何だったのか。そりゃそんだけ働いてたらやせるでとJさんにいわれたが、もともと二日にいっぺんはジョギングしていたのだし、肉体労働をはじめたからといってとくに運動量が増えたとは思えない。
 さんざん楽だのヒマだのいわれていたが、昼からは結局あれよあれよというまにいそがしくなってこれもうどうしようもねえなとなった。とはいえ今日はほとんど椅子にすわってるだけだったので、EさんTさんというふたりの上司とひたすらしゃべり倒しているあいだにいつのまにか夕刻になっていた。ひさしぶりにのどがガラガラになるくらいどうでもいいことばかりしゃべった。
 蕁麻疹のスーパーで総菜を二品買って帰宅するとカブトムシの水槽のにおいがした。朝、出しなに食べたバナナの皮の皿のうえに放置してあったのが腐りだしているのだった。玄米・インスタントの味噌汁・納豆・総菜二品の夕飯をかっ喰らったのち洗濯機をまわした。シャワーを浴びて部屋にもどりストレッチをし、おもてに洗濯物を干してウェブ巡回したのち、日記を書く気力もなく寝床に就いた。0時消灯。