20240701

 このジジェク理論の特性、構造の生成そのものを論じえない傾向は、ジジェクにおいて「転移」(=権力および構造の維持)と(出来事としての)「隠喩」(構造の生成)を混同する事態となって現れている。例えばジジェク(Žižek 1989)は、キリスト教の権威は、その教義の言表内容にあるのではなく、言表行為および行為者としてのキリストにあるとする。つまり、もし信仰がその教義の内容において信・不信が決定されるようであればそれは絶対的な信仰とは言えず、ゆえに主体にとって絶対的なもの=信仰の対象は、シニフィカシオン(意味作用)の水準にはなく、キリストにおいてキリスト以上のもの(対象a)を想定する幻想の中にあるとする。こうしてジジェクは、キリスト教の教義内容そのものはほとんど無意味であるとする。
 しかしここではむしろ、そこでのトートロジカルな言説の形式(「信じるものは救われる」「神を試してはならない」等)こそが「(父の名の)隠喩」として機能し、信者の人生における真理の不在を提示して信者にシニフィアンを与え、この享楽の体験によって信者を神経症から救っている。現場の分析家はこのことをよく知っている。ここで起こることは分析経験と相似している。そこで与えられる言葉は、シニフィカシオン(意味作用)の水準にあるものではないが、何でもよいわけではなく、享楽を可能にする「隠喩」でなければならない。分析家は転移だけで分析しているわけではなく、「隠喩」によって主体を言語と結合させることで、転移を最終的には解消させていく。転移の解消のためにこそ「隠喩」が必要なのである。「隠喩」とは言語内部における意味作用の麻痺によって言語のもつ限定性という限界(自己言及のパラドクス)を超えさせて主体の全体性を回復させる機能である。「隠喩」はもともと外に存在した他者の内化の作用(次節で後述)であり、それが言語内部で機能する点に構造生成の自律性がある。それなのにこれがジジェクの理論でなされているように、言語の外の権力作用に回収されてしまえば、全面的他者依存となって自律的な構造生成は妨げられてしまう。主体における享楽は、ジジェクによっては神秘的な経験のもとにおかれてしまい、すべてが人と人、さらにそれをとりまく転移-権力作用に解消されてしまう。ここでは権力作用である「転移」と、言語と主体の関係すなわち無意識によって呼び起こされる出来事としての「隠喩」とが混同されているのである。
樫村愛子『臨床社会学ならこう考える――生き延びるための理論と実践』より「第3章 現代社会における構築主義の困難」 111-112)



 7月だぜ!
 11時前起床。生活リズム、徐々に、徐々に徐々に、狂ってきた。今週末からさっそくスピーチの練習がはじまるので夜型にならないようにだけ注意したい。
 K先生から微信。食堂の営業予定について。今日からすべての食堂の二階は営業停止。一階は3日まで営業する。その後はよくわからん。ついでに教務室に提出する必要のあるドキュメントをすべて送る。教学手冊だけはじぶんで直接持っていく必要があるので雨の降っていない日にでも外国語学院にむかうつもり。検査入院の結果はどうだったのかとたずねてみたところ、ウイルス脳炎であったという返事。てっきりもう退院しているものかと思っていたのだが、いまだに入院中だという。しかし症状は全入院患者のなかでももっとも軽い部類であるらしく、おそらく二、三日以内に退院できるとのこと。原因は寝不足かもしれないという。おなじウイルス性脳炎で入院している患者の多数が不規則な生活をしていた若者であるとのこと。K先生も今学期何度か徹夜をしていたという。
 パンを切らしていたので第五食堂で閑古鳥の広州料理を打包。寮でナイジェリア人のHの姿を見かけたのであいさつ。握手をもとめられた流れで軽く立ち話。いつ日本に帰るのだというので、20日だ、それまではJapanese speech contestのためのextra classesがあると受ける。Hはfootballのtornamentに出場するという話だった。その後帰国するという。トーナメントがどこで開催されるものであり、どの程度の規模のものであるのかは知らない。Hはたぶんこちらよりも年下だと思う。
 メシ食い、13時から17時まで作文。「実弾(仮)」第六稿、今日はシーン8を加筆修正するだけにとどまった。もうすこしザクザク進めていきたかったのだが、やっぱり細部に変に拘泥してしまう。こういうのはよろしくない。作業BGMは『Richard D. James Album』(Aphex Twin)と『Nymphs』(Nicolas Jaar)と『Power Spot』(JON HASSELL)と『Ethereal Essence (Selected Version)』(Cornelius)。
 夕飯もまた閑古鳥の広州料理。『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱)の続きを観る。聴覚障害者のケイコがビジネスホテルの清掃員として働いているのを見て、そういえば(…)の系列店にも聴覚障害のあるおじさんがベッドメイクとして入っていたなとふと思いだした。Tの働いていたほうの支店の従業員。忘年会で顔を合わせた記憶がある。ケイコが会長とふたり、鏡の前でシャドーするシーンにちょっとぐっときた。最初のほう、プロという割にはあんまりミット打ちとかシャドーとかがきれいじゃないな、役者さんの問題かなという疑問があったのだが、ケイコにはボクシングの才能がないという言明がその後あり、あ、じゃあこのぎこちなさ、なんとなくどんくさい感じは狙ったものだったかと得心がいった。
 生活リズムをたてなおす必要があるので仮眠をとらずにチェンマイのシャワーを浴びる。三年生のS.Sさんに連絡し、去年のスピーチコンテストで即興スピーチ対策のためにどのようなテーマの原稿を事前に用意して暗記していたか教えてもらう。その流れで多少やりとり。二年生のC.Kさんからすでにコンタクトがあり、どのように準備に望めばいいかと問われたという。とにかく暗記が大事である旨伝えたというので、ありがたい、こちらが言いたいことを全部言ってくれたわけだ。S.Sさんもほかの学生と同様、今週末のN1試験を受験する予定であるが、今回の合格はおそらく難しいとのこと。本番は12月のつもりで準備している。N1試験を受けたあとはそのまま受験会場である(…)を彼氏といっしょに観光、その後济南に渡ってそこでも数日観光を楽しむ予定だという。
 きのうづけの記事の続きを書いて投稿。ウェブ各所を巡回し、1年前と10年前の記事の読み返し。月があらたまったので原稿の進捗状況も確認。「実弾(仮)」、この一ヶ月で第五稿(993/1137枚)→第六稿(101/1145枚)となった。ちなみに、いま確認してみたところ、第四稿があがった時点で1068枚だったようす。

 今日づけの記事も途中まで書く。一年生1班のF.Mさんから日語会話(二)の期末試験の点数が38点になっていたのだが本当だろうかという問い合わせの微信がとどいたので、教務室に提出する書類の形式上、「平時成績」と「期末試験」の二項目を算出する必要がある、しかしこちらは期末試験の結果のみを参考にして成績をつける方針である、しかるがゆえに期末試験の結果をこの二項目にふりわけているのだと説明。先学期まで考查の科目は「優」「良」「中」「及格」「不」の五段階のみ成績表に記載されるというルールだったと思うのだが、エクセルで点数をしっかり記入して提出しなければならなくなった今学期以降、学生らの成績表には五段階の結果のみならず「平時成績」と「期末試験」それぞれの点数も表示されるようになったのかもしれない。誤解が生じるのもいろいろまずいので、一年生1班と2班のグループチャットに以下のような通知を送っておいた。

こんばんは。夜分遅く失礼します。
日語会話(二)の成績について疑問がある学生もいると思うので、説明しておきます。
授業中にも何度か説明しましたが、成績は期末試験である「道案内」の結果だけを参考にしています。詳細は以下のとおりです。
 
①リスニング(10点)×4問
②スピーキング(10点)×4問
③発音・流暢さ(20点)
④早口言葉(最大10点加点)
⑤減点(スピーキングの細かなミス1つごとに0.5点減点)
 
しかし、教務室に提出する書類上では、「平時成績」と「期末試験」の二項目の合計点を提出する必要があります。これは形式上の要請です。
そこで、ぼくは「平時成績」に①③④⑤の合計点を、「期末試験」に②の点数を、それぞれ二倍にして記入しています。
また、不合格者は出さない方針ですので、総合成績が合格点に満たない学生には、「平時成績」「期末試験」ともに61点を便宜的に与えています。
①から⑤の項目について、自分が具体的に何点だったのか知りたいひとがいれば、いつでも連絡してください。

 ちなみに、F.Mさんは今学期まじめに授業を受けていたし、期末試験もしっかり対応できていた。63点という点数は自力で獲得したものである。さらに彼女は先学期の時点ではまったくやる気がなく、期末試験の結果も20点しかなかった。それを踏まえると、今学期は先学期にくらべて43点分成長したことになるわけで、そのことをこちらはとても高く評価している——そういうメッセージをしっかり伝えておいた。
 1組のS.Eくんからはおつかれさまでしたのメッセージがとどいた。コーヒーをいっしょに飲むという話は結局来学期に延長することに。こちらはスピーチコンテストの練習がひかえているし、彼はN2試験がひかえている。さらに最近「友達の寝室替えでちょっと忙しいんです」とあったので、クラスメイトの男子学生がほかの学院に「転籍」するのかなと思った(そうだとすれば、K.SくんかS.HくんかR.Gくんあたりだろう)。N2については試験会場に移動できるかどうかわからないという。(…)も浙江省も洪水が原因で高铁の運行が停止しているらしい。微信のアイコンが『サムライチャンプルー』の仁になっていたので指摘すると、大好きなアニメであるとのこと。先生も好きですかとたずねられたが、アニメは一話たりとも観たことがない、ただ殺陣の作画がすばらしくそれをまとめた動画を大麻でブリブリになった状態で視聴するのが好きだったわけだが、まさかそう伝えるわけにもいかない。
 あいだに夜食をとりつつ、teaching planの作成をすすめる。作業BGMは『The Way Up』(Pat Metheny Group)と『India Song Et Autres Musiques de Films』(Carlos D'Alessio)。五科目分すべて片付けると時刻は1時半だった。これで提出する必要のある書類はすべてかたづいたことになる。やれやれ。