20130427

 人間は誇りを学ばねばならないが、誇らしくあってはいけない。怒りを知らねばならないが、怒ってはいけない。人間はあらゆる歓びをもって苦行することができる。
マルティン・ブーバー/田口義弘・訳『忘我の告白』より「ハシド派の人びとについて」)

 天と地の創造は、無から有を展開させることであり、上なるものが下なるものの中に降りることである。しかし、存在界から身を離して、つねに神に着く聖者たちは、真に神を眺め、捉えるのである――彼らは有を変容させて無のなかに返すのだ。そしてより不可思議なことはこれである、無すなわち下なるものを上へと高めることである。「最後の奇蹟は最初の奇蹟より大きい」とゲマラに書いてあるように。
マルティン・ブーバー/田口義弘・訳『忘我の告白』より「ハシド派の人びとについて」)



6時半起床。8時より12時間の奴隷労働。朝礼「おはようございます!こころの救急箱、(…)です」。(…)さんは出張で不在。ゆえに内職に没頭できるかと期待したが、そんなわけにもいかないのが土曜日であり連休である。(…)さんの誕生日が今日だというので(…)さんが出前をとって昼飯をおごるという。その(…)さんの誕生日が二週間くらい前だったらしいので、それじゃあ(…)さんの昼飯はぼくがおごりますよと提案しているところに(…)さんがやって来て、(…)くんの分はワシが出す、と言い出すので、それじゃあ(…)くんの分はわたしと(…)さんとふたりで折半して出したらええやん、と(…)さんがいうと、いいや、おねえ((…)さんのこと)はそんなんせんでええ、こういうのは男にまかせときゃええんや、とわけのわからんことを言い出し、そして(…)さんはいちどわけのわからんことを言い出すと止めようがないので、結局、(…)さんの昼飯代を(…)さんが出し、(…)さんの昼飯代をじぶんが出し、(…)さんは手持ち無沙汰みたいな流れになった。
ひとつきかふたつき前に辞めた、というか実質クビになった(…)さんという古株のおっさんがいたのだけれど、その(…)さんと同じ時間帯にシフトに入っていた看護士の(…)さんが、(…)さんからたびたびポンプはないのかと言いよられていたという事実が最近になって明らかになった(らしい)。(…)さんはこれまでにじぶんが接したことのある人間のなかでもベスト5に余裕でランクインするレベルでとっつきにくく、高圧的で、威圧的で、場の空気を悪くすることにかけては天賦の才を有しているとしか思えぬ、情けをまるで知らないトカゲみたいな顔をした気難し屋の、ようするにプロ野球選手になりそこねたただのおっさんだったわけなのだけれど、あのわけのわからないイライラというのはとどのつまり切れ目に由来するものだったと、いまさらながらではあるもののじつに腑に落ちる解答を得た気がした。
メイクさんに負担がかからないように手の空いているときはなるべく客室にじぶんから出向いて食器を引き下げるようにここ一ヶ月ほどつとめているのだけれど、そして客室に出向くたびに「ちわー!仕事のできる男(…)です!」とかやっているのだけれど、最初のほうこそあの(…)くんが働いている!みたいなアレで、偉いねー!できる子だねー!と拍手喝采な感じだったのが、ここ最近はそんな自己アピールなしでも働ける男がいちばんカッコイイんだけれどねーみたいなことをいわれつづけていて、それだから今日はわざとだれよりも早く客室に出向いてひきさげるものだけひきさげ、かわりに「食器はひきさげておきました。匿名希望より」と書きつけたメモ用紙を部屋のいちばん目立つところに貼りつけておくなどの小ネタをはさんだりした。孤児院にランドセルを贈るタイガーマスクのノリ。そしたら(…)さんも(…)さんがそろって、いやースタッフの気持ちがよくわかるお客さんも中にはいるもんやねー(…)くんこれ見てみーこんな置き手紙あったんやけど(…)くんもそんなサボってばっかおらんとこのひと見習わなあかんでーお客さんがわざわざじぶんで洗い物ひきさげてくれたみたいやわーいやーほんま世の中気の利くひとっておるもんやねと、だいたいそんな流れで切り返してきたものだから、これはあくまでもぼくの予想っすけどその置き手紙ライターであぶってみてください、ほしたらたぶん(…)って字が浮かびあがってきますよといっておいた。
最近の午前4時は明るい。きょうはマスクをつけずに外に出た。じきに長い雨が降りだす。あければそこが夏だ。
寝る直前に代行運転の(…)さんから電話があっていま仕事中かとたずねられたのでこの時間はぼくの担当じゃないですよというといまからデリヘル嬢連れていくところだから電話してみたとあったから笑った。電話してどうするんだって話。おもしろい。