20130428

「私がおりますのは、私が創造される以前にいた場所なのです。そこでは、ただ神が神のなかに存在されるだけなのです。そこには天使も聖者も、合唱席も天もありません。八つの天や九つの内陣のことを口にする人びともいますが、そのようなものは私がいまいるところにはございません。言葉で表わされ、人びとに像で示されるようなものはすべて、神にいたるための刺激でしかないということをおわかりくださいませ、また、神のなかには神よりほかのなにもないということを。どんな魂も、創造される以前に神であったのと同様、あらかじめ神とならないでは、神のなかに参入することができないのです。」
マルティン・ブーバー/田口義弘・訳『忘我の告白』より「《修道女カトレイ》より」)



6時半起床。8時より12時間の奴隷労働。朝礼は「おはようございます! 三度の飯より労働が好き! (…)です!」。連日誕生日パーティー続きで不眠の(…)さんから桜えびのおむすびをいただいた。祇園の割烹料理店のものらしい。美味かった。
メダカが水草に卵を産みつけているのだけれど(…)さんがいうにはこの卵はたぶん孵らないだろうとのことで、というのもこれまでに何度も自宅の水瓶でメダカの卵を孵化させることに成功している(…)さんでも見たことのないような黒ずみを卵がおびはじめているからで、これはたぶんカビがはえてきてるんじゃないだろうかという。お腹のぷくぷくになっているメダカがほかにもまだ二匹いるので卵をうみつけるための水草を増やす必要があるのだけれど、(…)さんは今月すでにガスを止められている。(…)くん200円ばかしくれへんかマジで、とめずらしく金をせびてみせるものだから、回らない寿司を15000円分おごってもらった恩もあることであるし、はいよっと手渡した。これで水草がふたつ買えるらしい。そのあと(…)さんは客室で100円玉をひろった。これでみっつ買える。寿司おごってもらったあの晩の帰り道にコンビニで(…)さんのツレってひとと出くわした記憶があるんすけどあのひとっていったい何やってるひとなんですか、とたずねると、ぜんぜん知らへんという返事があって、そもそもはパチンコ屋で知り合った仲なのだという。となりの席にすわったやつがな、チラチラチラチラこっち見てくるもんやからな、腹ァ立ってきておまえ何をチラチラ見とんじゃボケが言うたったんや、それがあいつや、そっからなんかしらんけどときどき飲みに行くようになったんや、ほんのときどきやけどな、とあり、いくつくらいのひとなんですかね、と問うと、(…)さんのちょっと上ちごたかな、とあって、ええたしかぼくのふたつ上やったと思います、と(…)さんがいい、お名前は?とこちらがたずねるが早いか(…)さんがいきなり吹き出すものだからはてなと思っていると、いやおれあいつの名前知らんのや、出会ったとき金髪やったから金髪って呼んでる、携帯も金髪で登録してあるわ、という返事。たがいの職業をよく知らない、そういう間柄の付き合いというものは世の中に往々にしてあるものらしいと最近知りつつあるところなのだけれど、名前も知らないままにそれなりの年月と頻度を保ちながら交際を続けているというのはさすがに聞いたことがない。(…)さんも金髪さんとは二度ほど会ったことがあるらしいのだけれど、名前がわからないものだから会話の糸口をつかむのにとても苦労したという。(…)さんは金髪さんのことをもちろん金髪と呼ぶのだけれど当の金髪さんからはおにいちゃんと呼ばれているらしい。金髪さんは一時期トラック運転手をしていた。金髪さんは腰に爆弾を抱えている。金髪さんは父子そろってパチンコ狂いである。金髪さんの父親もまた(…)さんとはパチンコ仲間として面識がある。金髪さんは(…)さんの友人知人の集う飲み会にも出席したことがあるがそのときも終始金髪呼ばわりだった。コンビニで偶然に遭遇した晩はじぶんも(…)さんもベロッベロだったこともあって、金髪さんは95%の困惑に5%の恐怖をスパイスしたような表情を浮かべていた。あのひとちょっと気弱そうでしたね、というと、気ぃ弱いから金髪にしていかつい格好しとるんやあいつは、という返事があった。ちなみにくだんのコンビニの店長さんとも(…)さんは知り合いなのだという。店がオープンしたばかりのころに煙草を買いに出かけたところ、(…)さんの愛飲している商品だけが在庫切れで店になく、ちょっとこれどういうことやとなった(…)さんがバイトの子に店長呼べとかなんとか言いつけて、それで出てきた店長におまえちょっとよそのコンビニ行っておれの煙草買うてこいやとむちゃぶりしたことをきっかけにして近づきになったのだという。
洗濯物を干しにでかけた(…)さんがうわーうわーといいながら戻ってきたのでどうしたんですかとたずねてみると、なんかものすごく大きいヤモリ?イモリ?トカゲ?がいる!というので、まずイモリではないだろうしヤモリでもたぶんないだろうと見込みをつけて様子を見に現場の駐車場に出かけてみたところ、植え込みの一画でガサガサと茂みをゆらす割合おおきな音が聞こえて、のぞいてみるとなかなか立派なカナヘビがいた。カナヘビ!なんとなつかしい響き!トカゲは表皮がギラギラぬめぬめしていてあんまり好きじゃないが、カナヘビは地味な体色で鱗も乾いていて間近でながめてみると砂漠のドラゴンみたいな独特にかっこうのよい顔かたちと年寄りみたいな目の不釣り合いが半端なくすばらしくて好きだ。カナヘビですよ、とBさんに伝えると、カナヘビってなに?という返答があって、このやりとりの数時間前にじぶんと(…)さんと(…)さんの三人で昆虫の話をしていて、そこでコオロギだろうとカマキリだろうと平気で手づかみすることのできる田舎育ちを自称していた(…)さんなのにカナヘビも知らないなんて!とおもった。駐車場にいたカナヘビは尾がずいぶんと長くなっていた。記憶の底のほうに沈殿するあまたの自切にまつわる映像が脳裏をかすめて飛び去った。自切という言葉は自殺という言葉との響きの相似もあって使い方しだいではたいそうおもしろい概念になりうるかもしれない。あたためておこう。
昆虫にまつわるくだりを談笑しているときであったか、(…)さんの服役中の友人にひとりとてもひどい痔をわずらっているひとがいて、痛みのあまり労働どころか日常生活すらままならない。かといって頼みこめば治療をほどこしてくれるような環境でもない。よほど痛みが耐えがたかったのか、面接に来ていた家族にまで延々と痔にまつわる愚痴をもらす苦痛きわまりない日々をおくっていたらしいのだけれど、あるとき面接にやってきたお祖母さんであったかに、痔にはなめくじがきくのだと教えられた。わらにもすがる思いだったそのひとは、とりあえず運動場でなめくじを採集し、(…)さんの小指くらいある大きなものを見つけると、それをお祖母さんにいわれたとおり肛門につっこんだ。するとおそろしいことに、あれほどひどかった痔があっというまに完治してしまったのだという。そのひとの肛門の惨状については(…)さん自身肉眼でたっぷりながめたことがあるらしいのだが、なめくじによって完治したあとの肛門はそれはそれはきれいなものになっていたという。
(…)から夕食の誘いがあったので仕事を終えて帰宅したあと自室待機。まもなくやってきたが、おたがいなにを食べたいのかどこにいきたいのかよくわからないといういつものパターンで、ぐずぐずと職場の話などしているうちに時間もせまってきて21時、もういいやといういつものパターンでサイゼリヤにいったのだけれど外食といえばくら寿司か王将かサイゼリヤか、予算は1000円まで、19のころからなにひとつ変わっていない。今年で28になるわけだけれどどうする?ともっともらしいことを話しながらも別にどうするつもりもないしどうしたいわけでもない。女子高生と付き合えるか?ノー!ならば20歳だったら?いいやむずかしいね!22歳は?いけないことはない!だが気まずい!などという論議の結果、女性は24歳にして開始点に立つという結論に出たりする不毛な話からはじまり、英語の勉強法やら英会話の困難やら他動詞と自動詞の違いを最近になってはじめて知ったことや分詞とか目的語とか節とか句とかそういう諸々についていまだによくわからないしわかろうとする気にもなれないことや今日じぶんの職場にものすごくきれいなパツキンを連れたホストみたいな男がやってきたことやそれまで全然興味なんてなかったのにいちど外国にいってしまうとなぜか外国人という属性がそれだけできわめて魅力的な性的対象として前面にせりあがってくる現象の謎についてや(…)さんがいかに激烈にわがままであるかについてのささやかな例示のしかし尽きることなき羅列や(…)の職場の同僚の奥さんが最近ひったくり被害にあったのだけれど当の被害について電話報告を受けた旦那のほうが電話を切るなりものすごい不機嫌な形相で怪我してもいいから鞄くらい守れよ誰が稼いでいるんだと思っているんだとこぼしたという話や巨乳というものの魅力が十年ぶりに理解できるようになってきたという心境の変化や(…)の現状があいかわらずまったくもって推察できないという話や(…)さんはいまごろどうしているのだろうかと思うこともあるが連絡をとってみる気にはしかしまったくもってなれないなぜならいちど連絡などしてしまえばあの歯抜けは間違いなく図に乗るだろうからという話やジョギングの話やたちくらみの話や朝の6時半に合鍵で玄関の戸を開けてできたてほやほやのカレーライスを持ってくる大家さんは完全に狂ってるという話や(…)と(…)とじぶんの三人で出かけた鳥取砂丘日帰り旅行で(…)が二日酔いで死にかけていたことやパトカーのかたわらを駆け抜ける挑戦的なスピード違反であやうく一発免停になりかけたことやあの日たしか麻生太郎となかよしの中川なんとかいう大臣が死んだんじゃなかったっけという話や(…)と(…)くんとじぶんの三人で出かけた天橋立の日帰り旅行でリフトでのぼった山頂で夏にもかかわらずうぐいすが鳴いていたことやカモメとふれあえるというのが売りの遊覧船上に当のカモメが一羽たりともやってこずしかたなしに船内で購入したカモメの餌用の塩分がひかえめに設定されたかっぱえびせんをすべてじぶんで食った話や帰宅してから朝方まで三人で延々とSFC超魔界村をプレイしつづけレッドアーリーマーが凶悪すぎて倒し方がわからないものだからネットで調べてようやく攻略法を会得したという話や(…)とふたり出かけた車中泊+カプセルホテル泊の香川旅行で食いまくった山田屋のうどんの美味さやカプセルホテルで働いていた韓国人の女の子のふしぎな魅力やひりひりした物語の舞台になりそうなあのホテルの雰囲気やあそこにもまたじぶんや(…)さんや(…)さんや(…)さんや(…)さんみたいなはみ出しものたちがきっといるのだというドラマの確信やなんとかいう有名な日本庭園で目にした盆栽とその盆栽職人の語った印象的な言葉とそれらを「偶景」の一節として採用したという話などを交わして食った飯はパスタもエビもサラダもスープもおまけのスイーツもどれもこれもぜんぜん美味くなかったし予算も1000円を越えたしあげくのはてには立てかえた(…)の分の飯代を返してもらうのも忘れてブログを書き出しブログを書き終え午前三時。今日はおごりだ。どうせあと数ヶ月以内には賞金50万円が入るのだ。人生はちょろい。そのちょろい人生とやらにさんざんにふりまわされて気のふれてしまった男がここにいる。きみはふれるな。ふれないきみにふれてみたい。